【ファッションECの教科書】市場規模、課題、大手の打ち手を解説
私たちの生活に欠かせない衣食住の「衣」を担うファッション業界。ECにおいても存在感は大きく、その動向は絶えず注目されています。
今回は、ファッションECの市場規模や課題、大手各社の打ち手などについて解説します。現在のファッションECの動向を知るための教材として活用してください。
ファッションECの市場規模は2兆2,203億円
経済産業省が発表した令和2年度の「電子商取引に関する市場調査」によると、ファッション分野のEC市場規模は2兆2,203億円にのぼりました(令和2年度)。
この数字は前年比で16.25%の増加で、調査開始後では初となる2兆円の大台を突破しました。
ファッション分野ではここ数年EC利用率が増加していましたが、新型コロナウイルスの感染拡大により利用者が急増。実店舗からECへの置き換わりが加速した結果となりました。今後はECでの購入を体験したユーザーをどこまで引き留めることができるかが鍵となり、実店舗とのオムニチャネル化やライブ配信による商品レコメンドなど、ユーザーとの関係性を強化していくことが重要となってきます。
ファッション業界全体の市場規模は縮小傾向に
さて、ファッションECの市場規模は大幅な伸びを記録しましたが、ファッション業界全体の市場規模は縮小傾向にあります。
矢野経済研究所が実施した「国内アパレル市場に関する調査(2021年10月21日発表)」によると2020年の国内アパレルの市場規模は7兆5,158億円で、前年比81.9%と大幅な減少となりました。
コロナ禍による実店舗の休業やそれに伴う売上減、行動制限やインバウンド客の減少といったさまざまなマイナス要素が市場規模に反映された格好です。ただ、過去5年の市場規模を比較しても、前年比で横ばいか減少傾向が続いており、中長期的な展望としても市場規模は縮小傾向になると予想されています。
とくに実店舗とECの二極化は鮮明で、ECでの販売に活路を見出した企業や、オムニチャネルにいち早く取り組んだ企業は業績を伸ばしたものの、EC対応が遅れた企業は軒並み業績を下げています。
ファッションECの課題と大手各社の打ち手
さて、ファッション業界では実店舗とECでの二極化が顕著で、ECを絡めた販売網を構築した企業が業績を伸ばしています。
しかしファッションECにはまだまだ課題があるのも事実です。ここからはファッションECが抱える課題と、課題解決のために大手各社が実行している打ち手についてご紹介します。
課題1. 商品のサイズ感を掴みづらい
ファッションECの最大の課題といえるのが、商品のサイズ感が掴みづらい点です。
試着ができないECでは、商品のサイズ感が掴みづらく購入をためらってしまうケースが少なくありません。ファッションECを手掛ける各社もこの課題解決には積極的で、さまざまな打ち手を講じています。
ZOZOが2017年に発表した採寸用ボディスーツ「ZOZOSUIT」はファッションECのサイズ問題解決に向けての大きな一歩を踏み出した事例でした。結果として最初の試みは順調には進まなかったものの、2020年に計測精度と解像度を向上を遂げて発表された「ZOZOSUIT 2」は市場からもポジティブな反応を集めることに成功しています。
また、足のサイズを測定できる「ZOZOMAT」は2019年の発表当初から好評を得ており、サイズ問題への希望の光を灯しています。
一方で、こうした大規模な投資を実施できないケースではサイズ問題にどのように対応していけばよいのでしょう?
株式会社メイキップが提供するunisizeは、オンラインでのアンケートやAIによる写真採寸によるサイズレコメンドサービスを導入することができます。大手ファッションブランドがこぞって導入するなど高い精度とサービスの質をほこり、自社でのサイズ測定に大規模な投資を実施できないブランドにとっては魅力的なサービスです。
また、一部のファッションECではサイズ交換を一回に限り無料といったサービスを提供しており、事業規模の小さいブランドにとっては参考となる事例です。
課題2.実店舗との差別化
2つ目の課題は実店舗との差別化が難しいということ。
これまでファッションアイテムを購入するのは、実店舗というのが当たり前でした。そのため、ファッションECをオープンしても、サイトで購入せず実店舗で購入するというユーザーがまだまだ多いのが現状です。
こうした課題を解決する上で参考となるのが、ユニクロでしょう。ユニクロではコロナ禍以前から自社ECに注力してきましたが、実際の戦略ではオムニチャネル化が成功を後押ししています。
これまで培ってきた実店舗の強みを活かしつつ、自社アプリなどで店舗の在庫確認やEC商品の店舗受け取りを実施。また、店舗でサイズがない場合でも、その場で精算まで済ませ自宅で受け取るといった自由度の高いショッピング体験を実現しています。あえて実店舗との差別化をするのではなく、両者を横断したブランドの利用を促し、顧客の囲い込みに成功しました。
また、D2Cブランドが展開する「売らないお店」という戦略も実店舗との関係性を考えるヒントとなります。実店舗はショールームやカスタマーサポートだけに利用し、商品の購入はすべてECから行います。この仕組みであれば、一度店舗を訪れサイズを測定すれば、以降の商品購入はECで完結することができます。
オーダーメイドスーツを販売するFABRIC TOKYOは店舗での販売も実施していますが、採寸さえ行えば以降はすべてECで購入を完結できる仕組みを構築し、国内D2Cの代表格に成長しています。
課題3.ファンの育成
ECサイトでの購入が進むことで、これまで実店舗で培ってきたファンの育成が難しくなる点もファッションECの課題です。
実店舗はユーザーにとって店員とのコミュニケーションの場としての意味を持っていました。ECでは利便性を高めることが重視されるため、どうしてもコミュニケーションが難しい側面があります。
こうした課題を解決するアイデアとして、自社メディアの運営は参考となるでしょう。大手ファッションブランドのBEAMSでは、ファンの育成や関係構築を目的としてWebメディア『B CULTURES』を2021年9月にスタートしました。商品開発におけるストーリーやブランドやアーティストの背景を自社で発信することで、ブランドの世界観を伝える取り組みを行っています。
こうした取り組みは小規模の店舗でも可能で、SNSによる発信やライブ配信はファンとのコミュニケーションを図り、ブランドの価値を向上させる格好のツールです。こうしたメディア型のEC運営はD2Cブランドが得意としており、人気ブランドの事例を参考にしてみるとさまざまなヒントを得られるでしょう。
まとめ
ファッションECはコロナ禍の巣ごもり消費の追い風を受けて、市場規模が急激に拡大しました。一方で、ファッション業界全体の市場規模はここ数年頭打ちの状態が続いていましたが、コロナ禍の影響で実店舗販売が伸び悩み市場の縮小に歯止めが効かない状態です。
今後はECでの購入が加速する一方で、サイズ測定やファンの獲得などこれまで実店舗が担ってきた強みをいかにECで実現するのかが重要となってきます。ヒントとなるのがデジタルツールの活用で、企業のDX化ブームにより開発の進む各種ツールが、活路を見出すポイントとなってきそうです。
EC通販に精通したプロがお答えいたします。